臨書 ~ 孫過庭 書譜(今不同獘所…)


日本書道学会、10月号半紙臨書課題の書譜の一節です。

書譜は全文3811字で、内容は王羲之を典型として、
過去の書家の作品を品第評価し、書の技法や学書法を解説したものです。

その一節に「楽毅を写せば情に怫欝(ふつうつ)多し」とあります。
湧きおこる激しい怒り、憂い、悲しみ、そういうものが欝然として
「楽毅論」にはとどまっている、という内容です。

書には根本的に二つの考え方があると思います。一つは自分の心に
喜びがあった時には喜びが、悲しみが湧いた時には、その悲しみが書に表れる、という内面、心の動きが表れる象徴性豊かな表現です。

もう一つは、パターンがあり、一応何でも決まった技法にあて、
書の素材である文章内容や文学性を無視して、自分の技法、情懷だけを
頼りとする考え方です。

前者の象徴性豊かな書の作品は、他の芸術分野の作品に比べて、
非常に少ないと言わざるを得ません。

絵画では色彩の力、線の力、具体的なものの形などを借りて、
作者が表そうとした内容を見る人に伝えることができます。

音楽にしても、彫刻にしても、表現の形式はそれぞれ違いますが、
どういう方法を取れば、より万人が喜びなら喜び、悲しみなら悲しみ、
という共通した心の動きに対応できるか、ということを追求して
作品を形成してきました。

書の場合は、文字としての約束事を逸脱できないという
制約はあるものの、象徴性を追求する人は非常に少なく、
それだけ書における象徴性の表現は難しいということだと思います。

これからはもっと象徴性を追求していかなければならない…と、
書譜を臨書しながら痛感しました…。


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