第51回現代書作家協会展作品 ~ 麻姑仙壇記


8月9日~19日に、六本木の国立新美術館で開催された
第51回現代書作家協会展です。




去年より出品数は若干減ったものの、臨書部門、現代書部門は
やはり力作揃いで、特別企画の大禪法師の作品もスケールの大きい
絵画や、自由奔放に筆を運んだ書など、色々楽しめました。


今回は顔真卿の麻姑仙壇記を全臨しました。
黒色の全紙に純金泥の墨で書いた後で、猪牙で文字の表面を
磨いたので、光を当てると文字が輝きます。

「麻姑仙壇記」は美女仙人、麻姑の事蹟を記したもので、
麻姑の手が鳥の手に似ていて、蔡経という人が、
「麻姑の手で背中を掻いてもらったら、さぞ心地良いだろう。」
と思ったことが文中にあり、この話が日本に伝わって、
「麻姑の手」が「孫の手」になったと言われています。

前回までで、
 ◎九成宮醴泉銘(欧陽詢)
 ◎多宝塔碑(顔真卿)
 ◎孔子廟堂碑(虞世南)
 ◎雁塔聖教序(褚遂良)
初唐の四大書家の代表的な楷書を全臨した「四部作」が一応
完成したため、正直、今回は何を臨書しようか、かなり悩みました。

元々、自分の中では、臨書であれ、創作であれ、
 ◎他の人がやっていないことをやる。
 ◎今までありそうで、なかったものを作る。
というのを、作品制作のコンセプトにしています。

それで、臨書展の今までのデータを調べたところ、
臨書部門の作品は、全体的に年々、一部の法帖に偏ってきている傾向が
見られ、自分も含めて、皆さん、もう少し色々な古典にチャレンジして
いただければと思いました。

昨年の今井凌雪先生の素晴らしい臨書作品を除けば、
この「麻姑仙壇記」は、ここ数年間、どなたも臨書していません。
自分は大好きなのに、何でこんなに人気がないのか…。
それを自分自身で臨書して、確かめたくなりました。

そういった経緯で「麻姑仙壇記」に決めたわけですが…、
いざ、全臨するとなると、かなり難しかったです…。

顔真卿の若書きの楷書「多宝塔碑」では、まだ顔法は控えめで、
初心者には学びやすいかも知れませんが、顔真卿の真価を
発揮したものとはなっていません、

楷書は初唐時代に、一つの完成の域に達しましたが、顔真卿はそれを
さらに一歩進めて、篆書の用筆を取り入れました。

晩年の「建中告身帖」では顔法の特徴が良く表れていて、躍動感が
あり、変化のある楷書に変わっています。

「麻姑仙壇記」はちょうど。「多宝塔碑」と「建中告身帖」の
中間の特徴を持っていて、書きっぷりは「顔氏家廟碑」に近く、
顔法が芽生え始め、淡々と書かれています。
それでいて力強く、古拙な味わいがあり、見れば見るほど不思議な
魅力を持っています。

ただ、人によって、好みが分かれるだろうとは思います。
初心者の方や、書に関心のない一般の人であれば、大多数の方が、
「麻姑仙壇記」より「多宝塔碑」が好きというかも知れません。

老子に「大巧若拙」(すぐれて巧みなものは、一見つたなく見える)
という言葉があります。
顔真卿はピカソと同様、「拙」の要素を取り入れたところに、
面白さ、一種の不気味な魅力を感じさせてくれます。

臨書する際も、そういった雰囲気を出すのに苦労しました。
スケールが大きく、ふくよかで温かみがあり、懐の深い、
まさに「王様」が仁王立ちしているような貫禄は、
十分に再現できなかったと思います。

今回、自分自身は受賞には至りませんでしたが、
社中から3名の方が受賞されました。
そのうち、お二人は初出品で初受賞です。
受賞された皆様、本当におめでとうございます。
また、来年に向けて頑張りたいと思います。


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